模様が風景のように見える石は様々な時代、様々な地域で珍重されてきた。ヨーロッパではかつて天地創造の習作の名残であるとも言われ、錬金術師たちからは岩石中の「霊気」の作用によると考えられた。特にフィレンツェで産する大理石Paesina=小さな絵は有名で、意図された「絵画」としかいいようのない見事な標本がメディチ家やチェコのルドルフ二世などによって蒐集されたという。Paesinaには模様が建物の廃墟のように見えるものも多く、これらは「あばら屋石(ruin marble)」と呼ばれている。これらの石の模様を神話や旧約聖書の物語の場面に見立てて、石の模様の上に人物画を描き加えて一枚の絵画とした作品なども多々残されている。イギリスのCothamで産する原始的な藻類の化石もポプラ並木のような景色を作り出すことで有名だ。Stromatoliteの化石は世界各地で採れるがこうした模様のものは他にない。アメリカのオレゴン州産のジャスパーには風景石として知られるものがいくつかあり、特にビッグス・ジャスパーの模様は山々が連なる独特な景観を生み、樹状にのびた金属のインクルージョンがさながら谷に生えた木々のように見えるものがある。バランスの良い「風景画」としてトリミングされたものは高値で取引される。
石の模様が風景に見えるということを歴史を通して最も珍重しているのは中国の愛好家たちだろう。雨花石などの瑪瑙やジャスパー、あるいは石灰岩など、石の種類は様々だが、蒐集家は石の模様に題名を付けて楽しむ。岩、石の形そのものを霊山に見立てたり、断面の模様を景色に見立てたりするが、そうした「見立て」の文化的伝統は日本にも伝わり独特な発展を生んでいる。日本で、鉱物標本としてでなく、「石が好き」というと、最近のニューエイジ的な嗜好の人でなければ、水石愛好家や菊花石や梅花石の愛好家のような「見立て」系の愛好家のイメージが強い。どこか、平均年齢が非常に高い、渋ーい「隠居の道楽」というような印象がある。

 

Paesina (Ruin Marble)
Firenze, Tuscany, Italy
210mm x 120mm x 7mm
Paesina (Ruin Marble)
Firenze, Tuscany, Italy
145mm x 105mm x 7mm
Paesina (Ruin Marble)
Firenze, Tuscany, Italy
88mm x 50mm x 7mm

Paesina (Ruin Marble)
Firenze, Tuscany, Italy
160mm x 50mm x 7mm
Biggs Jasper
Oregon, USA
230mm x 180mm x 8mm
Biggs Jasper
Oregon, USA
210mm x 180mm x 7mm
Biggs Jasper
Oregon, USA
110mm x 80mm x 7mm
Dechutes Jasper
Oregon, USA
190mm x 90mm x 7mm
Owyhee Jasper
Oregon, USA
48mm x 48mm x 7mm
Succor Creek Jasper
Oregon, USA
120mm x 50mm x 10mm
Willow Creek Jasper
Oregon , USA
165mm x 75mm x 7mm
Rocky Butte Picture Jasper
Oregon, USA
155mm x 110mm x 8mm
Storomatolite in Marble
Cotham, England
210mm x 70mm x 7mm
Limestone
near Shanghai? China
100mm x 73mm x 8mm
Apache Ryolite
Arizona, USA
95mm x 55mm x 8mm